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――遥か宇宙の惑星が、ひどく輝いて見えたから。

先日、Amazon Primeで配信が解禁された映画。
「シン・ウルトラマン」

いろいろな事情で劇場に足を運べなかった自分。
解禁の日をとても楽しみにしていました。

そして解禁当日。
昨日のこと。

その時の僕の意識は、非常に曖昧な状態でした。
持病と、先日接種したコロナワクチンの影響です。
微熱ですが熱が下がらず、困っていました。

そんな中で視聴を開始。
最初はいまいちピンと来ませんでした。
しかし、観続けるうちにどんどんのめり込み……。
手を握り締め、ドキドキする胸で画面を見つめていました。

何が起こったのか。
観終わった後、しばらくよく分かりませんでした。
最後に流れた、エンドロールと米津玄師さんの楽曲。
「M八七」

それを聞いた時に、何か合点が行った気がして。
僕は、感動で胸が一杯になり、大きく泣きました。



君が望むなら
それは強く応えてくれるのだ
今は、全てに恐れるな
痛みを知る唯一人で在れ


僕がこの、庵野監督の作品「シン・ウルトラマン」……。
それを通して見たもの。
体験したもの。

それは、紛れもなく子供の頃、ウルトラマンに対して抱いた憧れであり。
純粋な、あの頃の気持ちになって楽しんでいた自分に気づけた事実でした。



僕は、作品を読んだり観たりする時に必要以上に集中します。

「これは、どこがウケているのだろうか」
「この、どこを真似すればウケる作品がつくれるのだろうか」

そんなことばかりいつも考えている、極めてつまらない人間です。
だから、最初にシン・ウルトラマンを観始めた曖昧な時も。
勿論そう考えながら観ていました。

しかし、段々そんなことはどうでも良くなりました。

何がウケる。
どこを叩ける。

そんなものは途中から色褪せ。
ウルトラマンを好きだった自分を見ているような。
昔の、本当に作品が好きだった頃の自分を想起させるような。
そんな不思議な感覚に襲われたのです。



そんな不思議な書き出しで、レビューを始めてみます。
レビューと言う程仰々しいものは書けないかもしれません。
でも、感動で涙を流すという稀有な体験をさせてくれたこの作品。
是非、その感動を広めたいと思い、書き始めました。



ストーリーは一本道で、完全オリジナルです。
しかし、しっかりとウルトラマンの系譜を受け継ぐ内容です。

特に僕の胸を高鳴らせたのは、SE、BGMといったサウンドでした。
まるで昔、テレビで見ていた映像のように。
おぼろげな記憶の中にある、美化された「思い出補正」……。
それがそのまま映像、そして大迫力のサウンドとして押し寄せてくる感覚。

そう、思い出補正をそのまま出力したような怒涛の映像と音だったのです。

話は至って単純なものです。
しかし、序盤の伏線をしっかり回収したり。
尚且つ、隊員達それぞれの心と繋がりを2時間の枠の中で描く。
更に、多種多様な怪獣、異星人を出演させる。
どこにも無駄な要素がない、凝縮された2時間でした。



人の思い出補正は、想像以上に強いものです。
それが幼い頃、記憶に焼き付いた強さが強いほど、美化されます。

それ故、過去作のリメイクは難しいと言われています。
思い出補正を持つ視聴者の想像を超えることが、容易には出来ないからです。

どこかでアラが出てきてしまう。
どこかでアラを感じさせてしまう。
そこで一気に映像作品は色を失います。

シン・ウルトラマンはその点、観続けると色が濃くなっていく。
逆に思い出が強く想起されていくという稀有な作品でした。



僕自身、ウルトラマンの極端なオタクというわけではありません。
しかし小さい頃ウルトラマンに触れ、強くその記憶が頭に刻み込まれました。
帰ってきたウルトラマン(ジャック)が特に好きでした。

腕を骨折した時、ずっとウルトラマンに助けを求めていたそうです。
それ程、もはや忘れてしまった小さい頃の僕の心の中のヒーローである存在。
ウルトラマンは、小さい僕の心を支えていました。

シン・ウルトラマンの中のウルトラマンは無敵ではありません。
エネルギーを維持するのに弱点があり……。
そして、地球を攻撃しようとするゼットンには一人では太刀打ちができません。

しかし、それでも最後の戦いに向かっていく。
その背中に僕は、小さい頃の「思い出補正」のウルトラマン。
紛れもなくそれを見ました。
それを理解した瞬間、懐かしい、純粋な心でヒーローを見ていた自分を思い出し。
気づいたら涙していました。



思い出補正を超えてくる作品は珍しいものです。
人の想いはとても強く、それも多種多様です。
そこをかいくぐり、それよりも大きな感動をぶつける。
創作者にとって、これほどの願いはありません。
だからこそ、大きく響いたのかもしれませんね。



小ネタも沢山散りばめられていて、特撮ファンをうならせるものばかり!
今回のウルトラマンには、カラータイマーがありません。
それは、ウルトラマンのデザイナーである成田氏の元の構想に由来しているそう。

弱点を丸出しに、分かりやすく点滅させること……。
それは視覚的に良いことですが、成田氏は反対だったそうです。
そして、庵野監督がその意向を汲み取って、カラータイマーを外したそうです。

最初はカラータイマーがないウルトラマンに違和感を感じました。
しかし、体の変色によりエネルギー低下を表現していて、更に分かりやすい…!



登場する人物達もそれぞれ個性が強く描かれていて、物語に引き込まれます。

SNS等で大人気のメフィラス星人は、あまりの個性の強さに唸りました。
ただ恐ろしいだけではなく、知性と茶目っ気も持ち合わせています。
居酒屋でウルトラマンと話をし

「ここはワリカンでいいか?」

などと話してきます。

ここはワリカンでいいか? ←私の好きな言葉です。

隊員の皆さんもそれぞれがそれぞれの技能を生かして戦います。
人間のちっぽけさに絶望する時もあれば、ウルトラマンに勇気をもらったり。
等身大の「人の生き様」が強く描かれていました。



勿論、難しい事を考えなくても楽しく観れる作品です。
アクションは大迫力。
星人は個性が強い。
ウルトラマンはカッコいい。

難しい事を考えても楽しく観れます。
それこそ、僕のような思い出補正を強く持つ人にこそ刺さるでしょう。

この時代に、この環境に。
ギトギトに汚れてしまった今、大人になった僕の目に。
子供の頃心の中にいたウルトラマンの姿を想起させてくれてありがとう。

素晴らしい作品です。
「オススメします」
……私の好きな言葉です。


シン・ウルトラマン
西島秀俊
2022-11-18