HAZapDZH
 
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【 不定期 連載小説 】
全てのMMOを楽しむ戦士たちに、色を贈ります。
みそ×ジェミー 合同企画 FF14SS 

~僕は、彼女のことを何も知らない~
『明日の朝日は、そこにありますか』

[ 第4話 ]  チーター



<登場人物>
・リュウ: ミコッテ♂を使うプレイヤー。リアル世界に嫌気が差している。
・タマキ(茉莉環):リュウが出会った不思議なプレイヤーキャラ。

・ゼン:リュウが所属しているLSのマスター。ハイランダーの男性。
・ぐっちゃん:アウラ女性。人懐っこい元気な性格。
・ユキノ:寡黙なルガディンの女性。無口だが優しい。
・サイフォス:冷静なLSの仲間。リアルでは教師。
・ララ:リュウのことが好きなミコッテ女性のプレイヤー。

・黒い騎士:エドワードという名前。ある組織と通じているようだが…。
・ベルグ(堺里菜):エドワードと通じている女性。事情を知っている様子。



その後、数人テレポしてきたGMに事情を話し……。
蘇生されたゼンとユキノと共に、キャンプで一時間程タマキの復帰を待っていたが、彼女は現れなかった。
GMは詳しくは語らなかったが、後日調査レポートを巻き込まれたプレイヤーのメールアドレスに送信します、と言っていた。
彼らを責めても仕方がないし、バグはMMORPGにはつきものだ。
プレイヤーのデータに重大な不具合が生じるものではないようなので、ひとまず再構築されて元通りに直った食事処の椅子に腰を下ろす。
ちょっとした騒ぎになっていて、周囲はプレイヤーでごった返していた。
もちろんすぐに壊れた建物などは修復されているので、残骸が残ったりはしていない。
しかし、未実装のはずのレベル100のアグリッパと戦闘したという事実。
そして、よく分からない光を発して、それを倒したタマキ。
あれは……倒したというよりも……。

「消したな……」

ゼンが考え込んだ末、そう言った。
僕は頷いて口を開いた。

「ああ。タマキは、あのレベル100アグリッパのデータを操作してたな。消去とか聞こえた」
「まずいな……さっきのタマキちゃんの戦闘、もうYOUTUBEにUPされてる」

下を向いて離席していたユキノの目に焦点が戻り、彼女は額を抑えてため息をついた。

「プレイヤーの誰かが録画してたみたい。ツイッターでも画像が随分出回ってるよ」
「うーん……」

ゼンが頭をガシガシと掻いて息をつく。
そこでチョコボに乗った人影が二人、こちらに近づいてくるのが見えた。
僕は顔を上げて、その人に視線を合わせると、軽く手を上げた。
個別チャットで事情を話して、駆けつけてきたLSのメンバーだった。

「おいおい、ここらへんに入るの苦労したぞ。ゲームの中で身分証とIDの提示求められたのは初めてだぜ」

ヒューランの男性がため息を付いてチョコボを降りた。
サイフォスという、冷静でいつも的確なことを言うプレイヤーだ。
割と遅くまで起きているが、リアルでは教師をやっているらしい。
その隣のチョコボに乗っていたミコッテの女の子が、飛び降りてこちらに駆け寄ってきた。

「リュウ大丈夫? 動画見たけど、一刀両断されてたね」

心配そうに聞いてきたのは、桃色の髪をした少女、ララだった。
僕は肩をすくめてそれに応えた。

「真っ二つにされてたのはゼンとユキノ。僕は……」

そこまで話して口ごもる。
どう説明したものか、分からなかった。
ララは周りを見回すと、不機嫌そうに眉をしかめてみせた。

「その……よくわかんないプレイヤーってどこ? 動画にもチラッと映ってたけど」
「戦闘の後、ログアウトしちゃってそれから何もないよ。待ってるけど再ログインする気配がない」

ゼンがそう言うと、彼の隣に腰を下ろしたサイフォスが、顎に手を当てて考え込んだ。

「俺も動画を見たが、次々に削除されてるみたいだな。さっきこのエリアに入る者と出る者、両方の身分証とIDをGMがチェックしてたから、ツイッターの投稿もすぐに収まるとは思うが、あの女の子は何なんだ?」
「さぁね。私らもさっきまで一緒にいたけど、よく分からないんだ。リュウが連れてきた」

ユキノが答えると、ララが目をむいて僕を見た。

「え? 何、リュウのリアフレなの?」
「違うよ。リムロミで野次馬に囲まれてたのを助けて、それでズルズルと連れてきちゃったんだ」

目を押さえてそう言う。
何だか疲れた。
そういえば小休止もしていない。

「じゃあリュウも知らないの? その、タマキとか言う子が何なのか」
「ああ。全く想像もできない」

首を振ると、サイフォスが少し沈黙してから言った。

「ネットでは、タマキとかいう子にはすでに『チートプレイヤー』である『チーター』って愛称がついてるな。動画を見る限りでは、どうもGM、運営側のプレイヤーのような気もする」
「どういうことだ?」

僕が聞くと、サイフォスは注文したビールを口に運びながら続けた。

「お前達が戦闘したのは、レベル100のアグリッパだったようだな。当然レベルキャップが60の俺たちでは、40も上のモンスターには太刀打ちできない。でも、これを見てくれ」

ネットからダウンロードした映像をゲーム内に転送したのか、サイフォスは動画プレイヤーを指先前のスクリーンに表示させ、再生ボタンを押した。
空中に浮かび上がったスクリーンに、光り輝くタマキがアグリッパに手を伸ばすのが映し出される。

「ここだ」

サイフォスが動画を止め、画面を指差した。
全員で覗き込むと、彼はタマキの足元を指差した。

「風が吹いているのか、瓦礫が舞い上がっているな。で、さっき気づいたんだが、これだ」

指をスライドさせたサイフォスに誘導されて視線を動かすと、タマキの足元で浮かび上がった瓦礫が、彼女の周囲にたゆたっている白い光に阻まれ、停止しているのが見えた。

「このキャラクターは、干渉不能領域を持ってるな」
「干渉不能領域?」

ララが不思議そうに聞くと、サイフォスは頷いた。

「GMのキャラが持ってるような、独自のシステムだよ。簡単に言うと無敵エリア。普通、舞い上がった瓦礫は彼女の体に当たるはずなんだけど、近くまで浮かび上がって空中で静止してるんだ。これはGMキャラの特徴でもある」
「タマキが……運営側のプレイヤーなのか?」

僕が問いかけると、サイフォスは肩をすくめた。

「さぁな……私はその子と話したことがないから、そこまでは……だが、この特徴ははっきりしてる」
「無敵エリアって、何それ。そんなのズルじゃん」

ララが眉をひそめながら言う。
ゼンがそこで軽く手を叩いて立ち上がった。

「まぁ……事情は次にタマキちゃんがインしてきたら聞いてみよう。運営側から、何かの調査のためにインしてるのかもしれない。本人が話しづらそうだったから、無理には聞いてなかったんだ」
「ねえゼン、その子、これからウチで保護するの……?」

押し殺した声でララが言う。
ゼンは鼻の頭を指先で掻いてから、困ったように腕組みをした。

「仕方ないだろ。関わっちまったしな。それに、悪い子にはとても思えない。何だかこう、危うい感じがしてな」
「GMには話をしたのか?」

サイフォスがそう言うと、ゼンは頷いて続けた。

「ああ。ただ、GMは調査をするとしか言ってない」
「…………」

不満そうにララが息を吐いて、僕の脇に腰を下ろした。
それを横目で見たユキノが立ち上がる。

「悪いけど、私はそろそろ落ちるね。明日の仕事もあるし」
「俺もそうする。早く帰ってくるようにするよ。サイフォス、俺がいない時にタマキちゃんがインしたら、ちょっと対応頼むわ」

ゼンも続けてシステム情報を操作し始める。
頷いたサイフォスに目配せをし、ゼンの姿が消えた。
続けてユキノも消える。

(どういうことなんだ……GM側のキャラクター? チーター?)

混乱している頭を整理するように息を吐く。
温泉で楽しそうにしていたタマキの顔がフラッシュバックした。
そんな僕を心配そうに見ていたララが口を開いた。

「どしたの? 別のとこに行く?」
「いや……今日はそろそろ落ちるわ」

僕はそう言って立ち上がった。
ララが手を伸ばしかけて、それを引っ込める。

「ちょっと疲れた。また明日な」
「あ、あの……リュウ、あのね」

メニューのログアウトボタンを押したところでララが口を開く。

「ん? どうした、ラ……」

答えようとしたろころで、僕の意識は現実に駆け戻った。


私はここにいてはいけない人間。
どこにも、存在していてはいけない人間。
多分、あの世界にも存在してはいけないんだ。

でも……。

温泉、温かかったなあ。
初めてだった、お湯にあんなに深く浸かったのは。
初めてだった、あんなに綺麗で空気が美味しい場所に遊びに行ったのは。
全てが初めてだった。
友達のように他人と話すのも。
優しく接してもらうのも。

全て、この世界にはないものだ。

「あれ……」

小さく呟いて目に手を当てる。
私……。
泣いてる。
どうして、と思う前に、電子音がして暗い部屋の扉が空いた。
そしてバインダーを持った白衣を着た女性が、靴を慣らしながら中に入り、近づいてくる。

「起きたのね、茉莉(まつり)さん。具合はどう?」

問いかけられて、茉莉と呼ばれた少女は軽く咳をしてから、小さな声を発した。

「頭が……痛いです……」
「さっき鎮静剤を投与したから、もうじき効いてくるはずよ」
「先生」

茉莉は、病院服を着せられ、ベッドに横たわった姿勢のまま、視線を女性に向けた。

「ん?」
「次にゲームができるのは……いつですか?」

問いかけられ、女性は驚いたかのように沈黙し、そして少し表情を曇らせてバインダーをめくった。

「……少し安定してからじゃないと許可は出せないわ。でも……いいの?」

問いかけられ、茉莉は落ち窪んだ目を、力なく彼女に向けた。

「何が……ですか?」
「楽しかった? あなたはテスターなのよ」

茉莉は視線を天井に向け、少し考え込んだ。
そして目を閉じて息をつく。

「はい。私は……もう一回ゲームをしたいです」

か細い声を聞いて、女性は少しの間、やるせない表情でベッドに横たわる少女を見ていたが、やがて

「そう……」

と小さく呟いて、バインダーに何かを書き込んでから背中を向けた。

「明日もう一回、申請してみる。それまでゆっくり休んでいて」
「……はい」
「これは遊びじゃない。あなたの『お仕事』なんですからね」


靴を慣らしながらリノリウムの床を歩く女性を、通路の分岐点に寄りかかって腕を組んでいた男性が見て、口を開く。

「ベルグ」

呼びかけられ、女性は足を止めて呆れたように男性の方を向いた。
スーツに身を包んだ青年だった。
オールバックの髪をぴっしりとまとめ、メガネの奥に知性的な瞳を光らせている。
対象的に女性は、不健康そうにクマが浮いた目尻に、ボサボサのロングヘアーという出で立ちだった。

「現実でハンドルネームはやめて」
「あ……ああ、すまない。里菜」
「何の用?」

冷たく聞かれ、男性は少し表情を曇らせた後言った。

「あの子の様子が気になっただけだ」
「脳に負担があるのは事実よ。でも、それはプロジェクトの段階で十二分に分かっていたことでしょう。あなた達政府の人間は、それを承知でGOサインを出した。違う?」

里菜と呼んだ女性に睨まれ、青年は視線をそらした。

「それは……そうだが」
「本当なら、リアルでこうして会うのもだめなのよ? 規定違反になるわ」
「……里菜、聞いていないならいいんだが、知っていたら教えて欲しい」

真面目な声で言われ、里菜は口をつぐんだ。

「俺と戦ったあの少年は、どの病院にいるんだ? 名前は何と言う?」

まっすぐ見つめられ、彼女は視線をそらし、歩き出した。
そして男性の脇を通過する。

「知らないわ」

遠ざかっていく後ろ姿を見送りながら、男性は歯噛みして小さく呟いた。

「そんな訳無いだろう……」


それからタマキがログインしたのは、次の日の午後三時を回ってからのことだった。
一般的には休日だったので、結構な数のプレイヤーがいる。
地面を踏みしめ、慌てて背中の羽と、白い髪をポンチョの裾とフードで隠して家の影に隠れて座り込む。

(消えろ、消えろ……! どうして消えないの……?)

背中の羽を消そうと何度も念じるが、どうしても事前に説明されていた通りにならない。
諦めてメニューを呼び出し、フレンド欄を開く。
リュウやゼン、ユキノ、ミラの顔が頭をよぎったが、全員インしていなかった。
昨日一緒に温泉に行ったメンバーでインしていたのは、ぐっちゃんだけだった。
タマキは少し迷って、彼女に個別通信を送った。

『おおー! タマちゃん! 昨日は大丈夫だった?』
『は、はい……昨日は、その……すみませんでした……』
『何が? ああ、アグリッパの話?』

あっけらかんと言われて息が詰まる。
しかしぐっちゃんは明るくそれに続けた。

『何だかよく分からないけど、まぁあとで聞かせてよ。でも、そこはちょっと離れた方がいいな。昨日の動画とか随分ネットに出回ってるから、騒ぎになるかも』
『ど、どこに行けば……』
『五分くらい待ってて。今迎えに行くから~』

そう言ってぐっちゃんの通信がプツッと切れる。
タマキは息をついて膝を抱えた。
そこで、こちらに近づいてくる足音が聞こえ、彼女はビクッとして小さくなった。

「あなたがタマキさん?」

冷たく言葉を投げかけられ、タマキは恐る恐る顔を上げた。
そこには桃色の髪を揺らした、ミコッテの少女が、見下すように仁王立ちしていた。
彼女は鼻を鳴らすと、怯えた顔をしているタマキに言った。

「ゼンに言われて待ってたの。私はララ。同じLSのプレイヤーよ」



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文:ジェミー(天寧霧佳)  挿絵:みそ(ここでセーブするか?