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【 不定期 連載小説 】
全てのMMOを楽しむ戦士たちに、色を贈ります。
みそ×ジェミー 合同企画 FF14SS 

~僕は、彼女のことを何も知らない~
『明日の朝日は、そこにありますか』

[ 第7話 ]  セブンスヘヴン



<登場人物>
・リュウ: ミコッテ♂を使うプレイヤー。リアル世界に嫌気が差している。

・ゼン:リュウが所属しているLSのマスター。ハイランダーの男性。
・ぐっちゃん:アウラ女性。人懐っこい元気な性格。
・サイフォス:冷静なLSの仲間。リアルでは教師。ハイランダー。
・アダマス:ミコッテの女性。猫言葉を使う。
・ミラ:ミコッテの女性。サバサバした性格の姉御肌。
・ユフィ:思慮深いララフェルの女性。冷静な発言をする。
・ユキノ:ルガディンの女性。友情に厚い。

・エドワード:GMの男性。ある組織と通じているようだが…。

・ポチ:ララフェル警察の一人。快活な方。
・ユンス:ララフェル警察の一人。おとなしい方。



「用心棒……ってどういうことだ?」

ゼンが聞くと、エドワードは椅子に座り直して続けた。

「既に被験体4号……ああ、いや……タマキさんから聞いていることだとは思うが、彼女は現在、他のテスターから付け狙われているようなんだ」
「その……あの子の話にあった、チャイとかいうプレイヤーか?」

サイフォスが問いかけると、エドワードは頷いた。

「そうだよ。五人いるテスターの一人だ。いや、一人だった……と言った方がいいかな……」
「『だった』……? そいつは現に、まだこのゲームをプレイしているんだろう?」

リュウが口を挟む。
ユフィが頬に手を当てて続いた。

「GMさんの言いたいことが何となく見えてきましたわ」
「成る程ね」

ミラが頷いて、表情を曇らせて言う。

「あたしも又聞きだから、断言はできないけど……そのもう一人のテスター、言うことを聞かずに勝手に行動してるんでしょ?」

エドワードは、少し考えてからポケットから葉巻を取り出した。
そして口にくわえる。
葉巻にひとりでに火がついて、あたりに煙が広がった。

「……まぁ、そうなるんだ。残念ながら今回は」
「意味がわからないな」

そこで黙っていたゼンが口を挟んだ。
彼は片手を上げて顔の前でひらひらさせると、周りを見回した。

「タマキちゃんは、少なくとも自分は政府が管理している病院にいるって言ってた。他のテスターも自分のように、余命が……その、あまりない人間だって。そうだよな?」
「うん、たしかに聞いたニャー」

アダマスが頷く。
ゼンは顎に手を当ててエドワードを見た。

「だとしたら矛盾してる。政府のプロジェクトで送り込んだチートプレイヤー……って、この場合言っていいのか分からないけど、普通じゃない権限を持たされたプレイヤーが数名いるのは分かった。その中のひとりが、調子に乗って勝手に行動しはじめてるっていうのも理解できる。だけどな」
「…………」

黙っているエドワードに、ゼンは語気を強くした。

「言い方が悪いが、そんなのは子供の反抗期みたいなもんだ。テスターを管理しているのは政府なんだろう。いくら暴走されたからって、ゲームとの接続を切っちまえば済む話だ」

彼の指摘に、ユキノが表情を暗くして押し殺した声で続く。

「そうだね……そう考えるとGMさんが私らの護衛につくっていうのも意味が分からないな」
「説明しよう」

エドワードは葉巻を、テーブルの上の灰皿に置いてから腕を組み、周りを見た。

「私は4号……つまり、4番目のテスターである、タマキさんの担当だ。彼女の周囲で著しい不正があったり、彼女が暴走したりするのを止める役目にある」
「つまり……各テスターにはそれぞれ一人ずつGMがついてるっていうこと?」

ぐっちゃんが聞くと、エドワードは頷いた。

「そう、その通り。そして、GMの私達には、担当のテスター以外の情報は入ってこないんだ。勿論、私にはタマキさん以外のリアルの情報は一切分からない」
「そんなの、あなたが政府の人間だというなら要請して開示してもらえばいいんじゃないですの?」

ユフィが言うと、エドワードは首を振って答えた。

「それは数日前から既に行っているが、政府側は一切応じる気がないらしい。意図が分からないが……」
「暴走しているテスターについているはずのGMはどうしたんだ?」

サイフォスが言うと、エドワードは表情を曇らせた。

「分からないんだ。配備されているはずだったんだが、その情報も開示されない。見た感じでは、あのテスターは単独で暴走しているように見える」
「何てこった……随分とアバウトな企画だな」

ゼンが呆れたように言う。
エドワードは自嘲気味に鼻の頭を指先で掻いた。

「否定ができないのが心苦しいが……先日、私のプロジェクトチーム、つまりタマキさんを観測するチーム内で話し合いがあり、その結果、当面は私がタマキさんに張り付き、対象テスターから彼女を守ることになった。そして……」

彼は周りを見回し、続けた。

「タマキさんを保護しているコミュニティの、君達の護衛も同時に担当させてもらう。何故かは……言わなくてももう、分かっているね?」
「まぁね……IDからデータ書き換えて消去されちゃたまったもんじゃないし……GMさんがついてくれるっていうなら、少しは安心かなあ」

ミラが肩をすくめて言う。
彼女は、しかし納得がいかない顔でエドワードを見下ろした。

「でもさ、そんな権限持ったプレイヤー、どうすんのさ? GMさんがどーにかできるわけ?」
「…………」

エドワードは問いかけられて視線をそらした。
そして両手を膝のところで握り、しばらく考えてから口を開く。

「結論から言おう。私達GMにも、リアルのプレイヤーと、MMO世界のキャラクターのリンクを強制解除する権限がある」
「何だって? そんなのは初耳だぞ」

サイフォスが身を乗り出して口を開く。
エドワードは頷いて右手の手甲を外した。
そして手の平に書かれている赤い紋様を見せる。

「これだ。この魔法陣をプレイヤーに接触させれば、強制リンク解除の効果を発揮できる」

彼は手を降ろして魔法陣を隠し、続けた。

「しかし、この手で直接対象に触れなければならない。何度も試しているのだが、3号……チャイというテスターは相当なデータの改竄能力を持っていて、中々一筋縄では行っていないのが現状だ」
「成る程な……」

ゼンが息をついてエドワードを見る。

「用心棒とは言っておきながら、あんた、俺達のことも利用するつもりだろ?」

落ち着いた声を聞いて、エドワードは葉巻をまた手に取り、口にくわえた。

「……そのことについて議論するつもりはないよ。どうとってもらってもいい。だが……」
「…………」
「私のこのアバターには、干渉不能領域がセットされている。チャイのデータ改竄能力を目の当たりにした時に、私のような『盾』がいないと、丸腰の君達は逃げるしかなくなるが……それでもいいのかい?」
「良くは……ないな」

リュウが考え込んでから周りを見る。

「俺は賛成だ。この人の力を借りよう」
「いいんですの? 何だかとんでもなくキナ臭いですけど」

ユフィが隣のリュウを見上げる。
リュウは彼女の頭をポンポンと叩いて続けた。

「俺は、タマキがあと2ヶ月しか遊べないっていうなら……存分に楽しませてやりたい。そのためにGMが協力してくれるっていうんだ。こんな体験滅多にできることじゃないし……それに、これ以上心強い味方はいないぜ」
「お前は『こっち』だととんでもなく前向きだよなあ」

呆れたようにゼンが言って、太ももを叩く。

「俺も賛成ではある。どの道、タマキちゃんを保護することで狙われるのは俺達だ。キャラ消されちゃたまったもんじゃねえからな」
「…………今更なんだが」

そこでサイフォスが静かに口を挟んだ。
彼は周りを見回してから言った。

「タマキちゃんを、ウチで保護するっていうのは……決定事項でいいんだな?」

彼の問いかけに、LSの全員が少しの間黙り込んだ。
声を発しようとしたリュウだったが、脳裏にララの顔がちらついた。
あの子も、LSの仲間だ。

「俺が責任を持つ。いいだろう」

そこで、ゼンがはっきりと口を開いた。
顔を上げたリュウのことを一瞥し、彼はサングラスの奥の目をエドワードに向けた。

「で、俺達はどうすればいい?」
「ありがとう。ついては、君達の個別メールアドレスに、私の名前と、プロジェクトチームの名義でこれからメールを送らせてもらう。そこに、情報の秘匿事項に関しての注意書きがあるから、必ず目を通して欲しい。具体的には、ネットに流せる範囲の情報と、流せない範囲の情報がある。十分に注意してくれ……それで、メンバーはここにいるので全員かい?」

問いかけられ、ゼンは首を振った。

「いや……まだ数名来てないのがいる」

彼は顔を上げ、リュウを見た。

「リュウ、どうする?」

ゼンは気づいている。
それを察して、リュウは少し考えた後言った。

「とりあえず……ここにいるメンバーだけで、まずはメールを貰おう。あとは様子を見てエドワードさんから他のメンバーに話して貰えばいい」
「そうだな。今全員に公開するのは得策じゃないと、俺も思う」

サイフォスが頷いて続ける。
エドワードはメニューを操作しながら言った。

「分かった。これで、君達は私達のプロジェクトの協力メンバーだ。プロジェクト名は、『セブンスヘヴン』という。今後共、よろしく頼むよ」


リムサ・ロミンサのベンチでリュウは考え込んでいた。
エドワードは、自分達の用心棒につくらしいが、四六時中ピッタリくっついているわけではないようだ。
彼だって人間だ。
ロボットではない。
日常生活もあるだろうし、深夜から朝にかけてはログアウトしているということだった。
すぐにその空白の時間の警護体制も整わせるとのことだったが、若干不安が残るのも確かだった。
LSの主要メンバーは、ほぼエドワードのイン時間にプレイを合わせるということで合意していた。
リュウも、エドワードがログアウトしてから数分、少し考え事をしてから落ちるつもりだった。

ララは、今日はインしていない。

彼女にもなにか後ろめたい気持ちがあったのだろうか。
フレンド欄は灰色の表示のままだ。
タマキも、さすがにインはしてこなかった。
エドワードとイン時間を合わせさせる、と言っていたので、彼がいないところで来るとは思えなかった。

(寝るか……)

今の自分は、働いていない。
寝て起きて、またFFをやる。
しばらくこの生活が続けられそうではあったが……。
空虚だった。
リアルに戻ったら、自分には守りたい人もいなければ、守りたいものもない。
信念も、誇れるものもない。
働いていず、社会に適応できず、ゴミのような存在の自分がそこにいるだけ。
これからどうなるかも分からない。
そんな社会不適応者の自分が……。
MMOのこの世界で粋がって。
あと二ヶ月でインができなくなる、とても大変な思いをしている少女のことを……。
守る権利なんて、あるんだろうか。
こんな自分が、彼女を守れるんだろうか。
楽しませてやりたい、とみんなの前で大見得を切った。
その言葉に嘘はない。
本当に、そう思った。
でも……。
楽しませてやれるのだろうか。
こんなゴミのような自分が。
リアルに楽しさを見いだせていない自分が。
あの子のことを、理解して、救ってやれるなんて考えるのは……。
ひょっとして、おこがましいんじゃないだろうか。
なら……。
なら、俺は……。

そこまで考えた時だった。
ピッピ、と笛の音が聞こえて、リュウは顔を上げた。
少し離れたところに、警官のような装備に身を包んだララフェルが二人立っていた。
二人とも女の子だ。
彼女達は口にくわえた笛をもう一度ピッピと鳴らすと、大股にリュウに近づいてきた。
そして片方のララフェルがこちらを見上げ、ビシッと指をさす。

「リュウさんですね!」

ハキハキとした声で呼びかけられ、リュウは目を白黒とさせて頷いだ。

「あ、ああ。そうだけど」
「ララフェル警察のポチです!」

フンス、と胸を張って、ポチと言ったララフェルは名乗った。
隣のララフェルが妙におどおどした調子で続く。

「ボ、ボクはユンスです。同じくララフェル警察です……」

ボクっ娘……?
首を傾げて彼女達を見て、リュウは問いかけた。

「ララフェル警察……?」
「はいです。友人のエドワードから要請を受けて来ました!」

ポチが元気よく答える。
それにユンスが続いた。

「民間の自警プレイヤー団体です。今回、ボク達二人がセブンスヘヴンプロジェクトに参加させてもらうことになりました」

そういえば、聞いたことがある。
このゲームには、GMの他にも悪徳なプレイヤーやBOTを監視し、運営に報告するという自警団のような役目をしているプレイヤー団体がいるらしい。
その団体は、表立っては目立たないようにしているようだが、運営側から協力資金をもらっている、という噂もあった。

「マジかよ実在してたのか……」

リュウはそう言って、二人のララフェル警察を見た。
それにしても……。

「格好があからさまだな……」

ボソ、と呟いたのを聞いていなかったのか、ポチはパンパンとリュウの膝を叩いた。

「私達が、夜間の警護を担当させていただきますよ! 大船に乗ったつもりでお任せください!」
「まぁ、できることって言ったら運営に直で電話連絡することくらいなんですけどね……」

おどおどとユンスが言う。

(頼りないな……)

なんとなく思ったことを飲み込んで、リュウは二人と握手した。

「あ……ああ、よろしく。LSの加入権限持ってる奴がログアウトしちゃったから、後で紹介するよ」
「よろしく頼みますです」

ポチは頷いて周りを見回した。

「私達は深夜0時から、朝の9時までの9時間体制でそこら辺にいます! 遠慮なくなんだかんだ言ってください!」
「そ、そこら辺……」

ハハ、と引きつった笑いを発したリュウに、ズイとポチが手を差し出した。
キョトンとした彼に、ニヤリと笑って彼女は言った。

「で、今日のチップはいかほどもらえるんでしょうね?」

ユンスもニヤリと笑っている。
こいつら……悪徳警察だ。
リュウは額を押さえて深い溜め息をついた。



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文:ジェミー(天寧霧佳)  挿絵:みそ(ここでセーブするか?